友来たる

TOKIOに住む友達が

「京都に遊びに行くよ」

という。

 

ああ、そういえばそろそろ紅葉の季節だったと

聞いていたら

「だからあおうぜ」と彼女が言ったので

少しうろたえた。

 

家をあけられない。

 

母は最近すっかり年老いて

5分前のことを忘れると嘆く。

 

余所の家の同年代の人に比べれば

随分元気だと思う。

 

それでも老いは確実にやって来ている。

 

出しっぱなしの水道は

蛇口を閉めればそれですむ。

 

そう思いながら暮らしている。

 

きっと自分でも心許なくあるのだろう。

 

通院日、買い出しを済ませて少し遅く帰ると

玄関の外に小さな母の姿がある。

 

「ああ、良かった、帰ってきた。

…また入院とか言われているんじゃないかって

ちょっと

心配してたの。」

 

そう言って安心したように笑う母を

置いていけない。

 

「でも、私、出ていけないから。」

 

そういう私に

「あ、家まで迎えに行くからさ。

お茶でも。

私さ、気に入ったパン屋さんがあって、

それを貴方に、食べさせたいから

出るの無理なら、パン渡すだけでも」

 

え?

 

こんな田舎に

本当に?

家の前まで?

 

そうして

本当に彼女は来た。

来たんだ。

 

レンタカーで。

優しい旦那様が運転して。

 

 

楽しい時間はあっという間だった。

私は何も実のある話は、出来なかった。

沢山言いたいことはあった気がするのに。

 

人と話すと

解放されていく自分がいる。

 

なのに

久しぶりに人と話すと

話しをするのが下手になっている自分がいる。

 

話が散漫。

あっちに行ったり

こっちに行ったり。

 

それでも彼女は笑ってくれた。

 

そうしてあろう事か

買い出しにまで連れていってくれた。

 

旦那様も

行きましょう行きましょうって。

 

観光に来ているのに

そんなって言いながら

結局私は甘えてしまった。

 

 

彼女達と別れて

夜、その時買ったお刺身を食べていると

母が

「美味しいねえー。

頭叩かれても判らないくらい美味しいわ」

と言う。

 

安いスーパーの特売のお刺身。

でも、連れていってもらわなければ

口に出来なかったお刺身。

 

「大袈裟だなあ。」

 

と笑いながら

私はちょっと泣きそうになった。

 

山葵つけすぎたかなあ。