アンガールズ田中ドクターは言った

私は核医学検査でへっろへろになった。

へっろへろになって、車椅子で、ベッドまで運ばれた。

本当だったら、自転車に乗って、ちゃかちゃかーっと終わるはずの検査。
薬剤を使ったり、私の息があがってしまったりしたせいで、思わぬ時間をとられていたのだと後から知るけれど、そんなこたぁ知ったこっちゃない。

頭は相変わらず割れるように痛いし
肩で息をしてしまう。

 

あーこれは絶対に、心臓に何か問題があるんだ。

なんだよ、一体。
なんせ、このしんどさをなんとかしてくれ~~!!

ひーーん。

 

病院の固いベッドの上で、海老の様に身体を丸めて、ただひたすらそれだけを思って居たら、看護師さんがカーテンの間から顔をのぞかせて

「tonchikiさん、先生からお話があるそうです。
こちらへどうぞ。」

 

「はい。」

こんな時に、ちょっといい格好して、いいお返事してしまうのが私。
肩で息をしていようと、頭が割れそうに痛かろうと
平気さ、元気さって顔で返事をして、ドクターの元へと向かった。

あーふらふらする。


ドクターは、アンガールズの田中にそっくり。

 

「あら、うふふ、似ていらっしゃるわねえ」ってほのぼのと微笑むってレベルではなく、「ひょっとして血を分けた御兄弟ですか??」ってレベル。

「あーやっぱり似てるわ」

救急車でここへ運ばれてからずっとそう思ってきたけど
マジで似てる。

 

「・・・・・・う~~~ん」

 

部屋に入ると、アンガールズ田中ドクターは、
パソコンの前であれこれ画像を見ながら、低く唸っていた。

 

「・・・・・・」

 

「先生、よろしくお願いします。」

 

「・・・・なんか、検査薬剤でやったんだって?」

 

「あ、はい。」

 

「・・・ふーん。・・・・で、これ、貴方の検査画像なんだけどね。」

 

「はい。」

 

「・・・・綺麗なんだよね。」

 

「え?ほんとですか?・・・・良かったー。」

 

「うん。CTもね、レントゲンもね、綺麗です。」

 

「ああ、良かったーーー。」

 

心底ほっとした。
だって、心臓がどうのこうのなんて、怖いじゃん。

いつの間にか、頭の割れるような痛みは遠のいている。

 

「う~~ん。・・・でも、胸が苦しかったんだよね?」

 

「あ、はい。
なんか、こう、貧血起こす時みたいに、足元がひゅーっとして、
胸がおさえられるような感じで、息があがっちゃって・・・。

かかりつけの先生の所で診て戴いたんですけど、心電図が乱れているから、明日紹介状を持ってこちらへ・・・って話をしていたその夜に、救急車に乗ることになってしまって。・・・すみません。」

 

「う~~ん。そっか、そっか。
まあ、心臓に問題はないです。

・・・えっとちょっと脂肪がね、多いけど・・・内臓脂肪はついていないんだよなあ。
これ、学会に発表したいくらいの写真だよ。」

 

「あ、え、そう、ですか。」

 

私の脂肪問題はさておき、心臓に問題がないと判ったのなら、こんな所に用はない。
私は一刻も早く、家に帰りたかった。

 

私が「皇太后」と呼んでいる私の母は、超高齢者だ。
早く家に帰って・・・

 

そう考えた時に

 

「・・・明日、ちょっとマンモの検査しましょう。
マンモやったこと、ある?」

 

「いえ。初めてです。」

 

「ふーん。ま、ついでにね。」

 

「・・・はい。

で、先生、そしたら帰れますか?」

 

「え?帰りたいの?」

 

え?あんたは、こんな状況になった時、「嫌だ―!!!僕は病院にいるんだー!!」って駄々をこねるタイプなの??
そんなの相当な変人じゃん。
私は、普通人だよ~う。

「はい。
母が高齢なので、早く帰りたいです。」


「あーそっか。・・・まあ、そしたら明日マンモやって・・・明後日帰る??」

 

「はい!」

 

いいお返事の私。
いつの間にか、普通に息もしていた。

 

「じゃあ、そういうことで。」

 

「ありがとうございました。」

 

頭を下げて、部屋をでて
「あーやれやれ、心臓には問題なし。
頭にも問題なし。

・・・・でも、なんであんなに息があがったんだろうなあ。

ま、いいや。

帰れる、帰れる。」

 

ほっとして、安心した私は、その日いびきをかいて、ぐっすり眠った。