そもそもの始まりと核医学検査の話

入院経験は初めてじゃない。
だけど、初めての検査体験。

そもそも、目まいと頭痛が酷くて。
寝ていたら、ふうっと貧血の時みたいになる。

足元からふうっと。
嫌な感じ。

かかりつけドクターに診てもらったら、心電図を見ながら
「・・・狭心症とかだったら、えらいことなので、総合病院で入院検査を」

言われたその夜、気分の悪さMAX。

救急車のお世話になってしまったのだった。

で。

「大丈夫ですよ。
でも念のために。」

そう言われて、入院することになった。

そうして、あれよあれよという間に
なんか心臓に負荷をかける検査なるものをしたんだった。
心臓の機能の具合を見るっていうんで。

けれど、私、目まいがひどくて自転車に乗れなかった。
なぜ自転車に乗るかって言うと
後で説明するけど。

そもそもその検査室も車椅子で行ったのだったよ。

核医学検査っていうのよ~~。

「核」だよ、「核」。

そのせいか検査室は、地下室にあった。
銀色の重そうな扉には
黄色で例の核マーク。

え”-----って気圧される、へたれの私。

検査の正式名称は「塩化タリウム運動負荷シンチ」とかいうらしい。

患者はとりあえず自転車に乗って負荷をかけられる。
そのあと放射線を発生させる元素を特定の臓器に集まる物質に付けた薬(放射性医薬品)を
静脈注射して、病態の把握を行う・・・ってことだったんだけど。

と・こ・ろ・が
ところがですよ。

目まいが激しくて、私、自転車に乗るどころじゃない。

入院して、2日目だったんだけれど
頭がガンガンまさしく割れるように痛んでいて、眠れていない。

「あーーーこれは、無理だな。」

検査の先生がそう言ったので
私は「あーーこの検査はパスだな~。」と思った。

「・・・自転車に乗れないから、薬剤で」

「ああ、はい。」

薬剤??

そう、薬剤。
薬剤で自転車に乗った時と同じ状況を作りますーってことで、点滴された。

「はーい。
入ります~~~。」

そしたらさー、その瞬間、首の後ろの血管が開いてどっくんどっくん!!

もうずーとどっくんどっくんいっているのが判るという状態になって、息ができずー。

息が、息が、

どっくんどっくんどっくん

横で看護師さんが2人、私の手を握って

「大丈夫ですよ~。
先生が2人待機していますからー。
何かあっても、ちゃんと対応しますからー」

そう声をかけてくれるんだけれど、
その前に、息が!!!
息ができないッ!!!

ちょうど溺れたみたいになって―パクパク。

「薄めます。
大丈夫。薄めたら、戻りますから。」

息がッ!息がッ!!!



こ、怖かったー。

私は、小学校の時やった、蛙の解剖のことを思い出していた。
ああ、あの解剖された蛙の気持ち・・・。

いや、私は蛙じゃないけれど。

薬剤で身体をどうにかするってのは怖いーってか、マジでごめんやっしゃーだったー。
不覚にも、涙出た。

自転車に乗れていたら、なんてことはなかったのかもしれないんだけど。

繰り返すけど、薬剤で自転車に乗った時と同じ状況を作り出すってのは・・・

ひーーーーってへろへろと、へばっている私に検査技師の男性が、
「首の後ろの血管が開いたって感じで、ドクドクした感じがありましたか?」
と言うので

「・・・ああ、はい・・・」

力なく答えると

「実は僕もこの検査やったことあるんです。
どうもない人はどうもないみたいなんですけど、
僕も同じようになって、きつかったから・・・。

でもね。たいへんでしたけど、もう、終わりましたから・・・。
部屋に帰ってゆっくり休んでくださいね。」

「・・・そうなんですか。
人間の体って、薬でどうにでもなるんですね・・・怖かったー。

ちょっと、人体実験系の映画とか、観られなくなりそうです。」
 
と言ったら、「ふふふ」と男性は笑った。

「判ります。僕も、観られなくなりました。
家族には笑われるんですけど。」



で、結局そんな思いして検査して、結果どうもなかったって・・・、異常なしって。
本当に、本当に、神様ありがとう!!!な、ありがたい結果!!!!なんだけど。
なんやねーーん、きつかったー。



その男性に聞いてみた。

「どうしてまたこの検査をされたんですか?」

「ちょっと調子が悪くて、心筋梗塞だといけないって言うんで、ドクターが
「診てやるから検査しよう」って言って。
・・・おかげで、酷い事にならずに済んだんですよ。」
 
「え?じゃあ。」
 
「・・・今はこ~んなに山盛り、薬飲んでます。」

そう言って、両手を合わせてみせる。

「・・・でも、それじゃあ・・・ある意味ラッキーだったんですね。」

「そうですねえ。・・・まだ子供小さいから、頑張って生きて働かないと。」

彼は優しく笑った。


誰だって、病気なんかしたくないし
衰えたくもない。

だけど、どうにもならぬ事、ままならぬ事が起きるのも人生。

私は、車椅子で、病室に向かいながら、
検査する側の人が・・・って話を本人から聞いたのは、初めてで。

きっと、その結果も含めて「事情通」なだけに、却って色々苦しかっただろうなあ・・・なんてことを思ったのだった。


病院はさー、いろんな人生が如実に垣間見える場所。

きつい体験をした人って優しいよなあ。
そしてあの男性は今、毎日「コロナ」のことを考えながら、仕事をしているのだ。

そこまで考えて、
だけど、ああ、あの検査はもう二度と御免だわ、な私だった。

毎日、ほんと
好きなもん食べて笑ってるのが、一番。
それが私の幸せだなあ。

バタークリームケーキが食べたいです。


そんなこと考えてた。