Fさんのこと

ウォーキングの帰り道 、歩いていたら 町内に 消防車と救急車が 入って行った のが 見えた。

 

火事 ?

みたけれど 煙は上がっていない 。

なんだろう。

 

家に入る前 消防車が町内から 出て行くところが見えた。

 

火事じゃなかったんだ。

よかったよかった。

 

太后が畑から帰ってきた。

 

「F さん亡くなったんだって。」

 

 F さんは、 ご両親の 自慢の息子さんだった。

国立の 有名大学医学部を出て 、将来は前途洋々。

町内会の集まりで 、奥さんは 何度も息子自慢を繰り返した。

 

その息子さんが鬱になって おかしくなった と 町内 雀が噂し出した時、 何度かバス停で 彼に会った。

 

こんなに暑いのに、 何でセーター着てるんだろう。

 

奥さん自慢の息子さんは 、引きこもりに なった。

 

そうこうするうち、相次いで ご両親が倒れた。

 

母親も 父親も、 彼が介護した。

 

彼が一人で介護した。

 

バス停で オムツ パックを抱えた 彼を何度も見た。

 

いろいろ言う人はいたけれど 、彼がどんな に大変な思いをしていたか、 私には 容易に想像ができた 。

 

でも、だからと言って何が出来た訳じゃない。

 

 

介護の 日々の中、 おとなしく 優しい彼に 町内の役が回ってきた。

 

「2班の ○○さん」 そう呼びかけながら律儀に回覧を回してくる 彼は、 少しやつれているように見えた。 

「大変ですね。何かお手伝いできることがあれば」

そう言うと、ありがとうございますと彼は笑った。

 

 日々は回る。

 

母親 そして父親を送 り、彼は 一人暮らしになった。

 

しばらく経って 、彼の家の前で車椅子の 彼を見たとき、

「え?どうしたんだろう 。…ずいぶん 弱った感じだけれど。」

 

それでも こんにちはと挨拶すると 、彼は優しく微笑ん で、 こんにちはと返してくれた。

 

その彼が 亡くなった。

おそらく まだ 50代。

 

「F さんが亡くなりました。 家族葬で 送られます 。ご冥福をお祈りします 。」

 

回ってきた 小さな 紙で 彼の 下の名前を 初めて知った。

 

なぜだろう。

 

私はずっと 涙が止まらない 。