呑み込まれる夜

痛い。

ただひたすら痛い。

 

手術後 自分の病室に、スパルタ車椅子で 帰ってきた私。

 痛みに飲み込まれそうだった。

 

言うまでもなく、 痛み止めのための点滴は、下がっている。

 

ただ ずっと 際限なしに 痛み止めをするわけにはいかないらしかった。

 

「体に負担が大きいので あと30分後に。 我慢できますか。」

 

我慢なんてできません。

言ったところでどうにもならない。

 

「違うタイプの痛み止めを使いますねー。」

 

だけど それは私には少し効果が薄くて。

 

眠ってしまえば 痛みから逃れられる。

 

そう思うけれど 眠れやしない。

 

目を閉じていても  痛みで気が立っていて 、眠りの妖精は どこか違う世界へ行ってしまったようだった。

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 

「tonchikiさん 、痛み止め入れますね。」

 

ああやっと30分過ぎたんだな。

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

その繰り返し。

 

人間 こういう状況になると、 どんどんシンプルになっていって

「この痛みから 逃れたい。」

頭の中はそれだけになる。

 

思えば 普段私たちは 体を閉じて暮らしている。

歩いていて 突然 服を脱いで などというと、警察のお世話になる。

 

身体を見られること、イコール恥ずかしいこと。

 

だけど 病人として 存在すると、 誰に体を見られようが気にならなくなる。

 

「そんなことより 先生 、この痛み は どのくらいまで続きますか。」

 

体いっぱい 冷たい汗をかいて、朦朧としながら

「この状況から逃れたい 」

頭の中はただそれだけになる。

 

「はい。

痛み止め入ります。」

 

看護婦さんの声がして 、新しい痛み止点滴が吊り下げられると 、ああ、痛みが去っていく。

あーよかった。

 

今が何時なのか。

真っ暗な部屋の中、 寝返りも打てずに 耐えている私は 、なぜか 亡くなった父のことを 思い出している。。

 

自分がそうなってみなければ 分からないことって 、本当に 世の中には ありすぎるほど あるんだな 。 

 

静かな静かな 病棟。

 

誰かの 家族を呼ぶ 声が聞こえる。

高齢者が多い 病棟では、 面会禁止が続いて せん妄状態になる 人だっている。

 

痛みに耐えながら 遠い近いその声を聞く。

 

おーい おーい。 おーい おーい