ベストはそこにあったとしても

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「・・・tonchikiさ~~ん・・・・tonchikiさ~~ん・・・・」

 

ああ、誰かが私を呼んでいる。

ぼんやりした頭で
「・・・はい・・・」私は答えようとしたけれど、ちょっと呂律が回っていない。

全身麻酔による、大腸検査が終了したのだった。

 

「・・・大丈夫ですか~~。お疲れさまでした~~・・・・。」

 

「・・・はい。・・・・」

 

朦朧としている私の近くで、男性の声がした。

 

「・・・だからな。なんで僕をここに立ち合わせたかって言ってるのよ。

判っているやろうけれども、僕も暇じゃないねん。」

 

「・・・・はい。」

 

そう返事しているのは、あれは・・・ちびまる子ドクターの声。

 

「・・・だからな・・・」

 

「・・・すみません。・・・はい・・・ですが・・・。」

 

「・・・で、患者は・・・・」

 

朦朧としながらも、私は「これは自分のことだ」と思った。


「・・・tonchikiさ~~ん・・・起き上がれますか??
これから1時間、着替えた後、向こうで休んで戴きます。
・・・・大丈夫ですか?・・・その後、先生からお話がありますからね~~。」

 

「・・・はい。」

 

ちょっと足元がふらついた。
しっかりしろ、私!


またもや薄っぺらのスリッパと穴あきおパンツを脱ぎ捨てた後、
看護師さんに誘導されて、ベッドに横たわる。

 

「麻酔が完全に醒めるまで、1時間ほどここで休んでくださいね~~。」

 

看護師さんが、向こうへ行ってしまった後、
私は先ほどの声のやり取りのことを考えていた。

 

あれは・・・多分私のためにチームを組むと言っていたちびまる子ドクターが、呼んだ男性ドクターの声なのだろうと、推察した。

ちびまる子ドクターとは、ちょっと相性がいいとは言えないよな。
そう思っていた。

パニック障害なんて、どうってことはないです。」

 

そう断言したちびまる子ドクター。

「なるほど。

そうかもしれない。
でも、そうは言っても、かなりしんどかったんですけど。

ああ、でも、今はちょっと落ち着いたかなあ。
・・・結局、パニック障害よりも、癌の告知の方がインパクト強くて、
パニック、癌に飲み込まれたってことか??
それもまた・・・ぷぷぷぷ。」

そんなことを考えながら、結論として
「やっぱ、このドクターとの相性は今イチなのかしらねえ。」
そう、感じてた。

 

その後、私の病室に来て
「・・・tonchikiさん、万全の体制をとりましたから。」

 そう言ったちびまる子ドクター。

 

「ん?ひょっとして、私を安心させるためにわざわざ来てくれたってこと?

・・・だとしたら、さっきあんな風に言わなきゃいいのに。
随分不器用なドクターだよなあ。」

少し可笑しかった。

そのちびまる子ドクターの声。

私は医者じゃない。
だからあくまでも推察でしかないけれど、ちびまる子ドクターは、本当に私のために頑張ってくれていたのかもしれない。

チームを組むのに、彼女の考えるベストメンバーを揃えようとしたんじゃないだろうか。

 

でも、現場でのパワーバランスとか、男女の意識の差とか・・・そういう問題って、こんな医療の現場にだってあるに違いない。

 

いや、あるよな、きっと。

 

その中で、ベストメンバーを・・・と思って働きかけても、
なかなかうまくいかなかったのかもしれないよな。

 

自分が働いていた頃のことを、ふっと思い出した。

 

これがベストの判断、ベストの選択と思っても
仕事は独りでするものじゃない。
だからこそ、そのベストをみすみす選べないことだって、ある。

 

そういう中で、それでもなんとか、と、頭を下げ、唇を噛みしめて・・・ああ、ちびまる子ドクター、ひょっとして貴方もそうなのですか?
そうだったのですか??

 

私にとっては、尋常ならざる場所だけれど、
ちびまる子ドクター達にとっては、日常、そして職場なんだよね~。

 

相性が悪いかも・・・そう思っていたけれど
ちびまる子ドクターは、いつかの自分だった。・・・そんな気がした。

 

そうか。

 

そうか~~~・・・と思いながら、私は目を瞑った。

まだ麻酔は醒めない。