純情仮面

なぜ、ご陽気ドクターも、まる子ドクターも、私に「パニック障害」だと
その時点ではっきり言ってくれなかったのか。

それは、それどころじゃなかったからだろうなあ~と、今は思う。

そんなことより、検査!!!!


あっという間に、再入院の日がやって来た。

とりあえず 

再入院前は、絶食。

それも2日前くらいから、極力消化の良いモノを食べた上で、絶食・・・ということだったので、私はうどんや、おかゆを食べて過ごした。

うどんだって、おかゆだって、そりゃね。
美味しいことは美味しいけれど
でも~~・・・。

しかも量が!!
普段食べている食事の量と比べると、半端じゃなく、少ない~~~。

それでも、初めての大腸検診だもの。
良い結果を得るためには、良い患者でいなけりゃね~。
そう思って、我慢の子。
やればできるさ。私だって!!

「・・・なんかさー、TVって、夜が深くなるにつれて、食べ物扱うネタが多くなるよね。」

 

「そう~???」

 

「うん。絶対そう!ほら見てよ!10時も過ぎたっていうのに、な~にが『お口でとろける絶品オムライス』だっつうの!!・・・・ああ・・・・腹減った~~~~。」

 

情けない声でTVの画面に向かって毒づく私。

そんな調子だったから、再入院したときには、とにかく頭の中
「お腹がすいた。」
「早く検査終わって家に帰って、美味しいもの食べるぞ。」

「冷蔵庫の中の六花亭のバターサンド、ちょっと隠してきたけど、あれ見つからないかな。残ってるかな。」

そんなことばっかり。

 

入院前、大腸検査については、母や弟から、散々「経験者としての意見」を聞かされていた。

 

「なんせ、あの検査薬がまずいのなんのって!!」

 

「まあ、カメラはね、時々腸の壁にあたって、アイタ!ってこともあるけど
なんてことはないわよ。

ただ、その検査薬が!!。
検査薬が飲めたもんじゃないの。」

 

「俺も一回検診で引っかかって、大腸検査受けたけど。
あ~~れは、検査薬がな~~。」

 

「そんなに?」

 

「ま~ずいなんてもんじゃないぞ。
なんつうか、ねっとりと重い味でさー。
俺、もう1度飲んでって言われたら、逃げるわ。」

 

母も弟も口をそろえてそんな風に言うものだから、これは相当なまずさなんだと、覚悟する。
あ、そういえば、ちびまる子ドクターも
「飲めますか?大丈夫ですか?」とか言ってたっけ。


持ってこられた検査薬は・・・「え?こんなに飲むの?」って量。
ベッドの横のテーブルに、ドン!

 

「あ、途中でOKになったら、全部飲まなくてもいいですから。」って看護師さん。

 

どれどれ。

ごくりと一口飲んでみた。

 

「なんだ、これ、・・・スポーツドリンクじゃん。」

いける、いける。
やだなあ。
弟も皇太后も、大げさ~~。

ごくりごくり。

すっかり安心した私。

 

「それじゃあ、tonchikiさん。
便が出たら、トイレで流す前に、呼んでくださいね?」

 

へッ?
なんですと??

「カメラを入れてもいいって状態かどうか、便の状態をチェックしていきますんで。」

 

「そ、そうなんですね。」

 

「これ全部飲んで戴いたら、OKになるとは思うんですけど、
もし駄目なようだったら、追加で飲んでもらうことになります。」

えーーーーー。
いくら、思ったよりとは言っても
そんなに沢山飲むのは御免だわ。

 

ごくりと、飲む。

トイレへ。

看護師さんを呼ぶ。

 

えーん。
仕方ないけどさ。
うんチョスを他人に見てもらうなんて、何のプレイなの??

看護師さんには女性も男性もいる。

そして、その中には、若い女性も「若い男性」も、いる。
いらっしゃる。

 

「・・・あーまだですね。
もうちょっと、頑張ってください。」

 

ひーーーん。

 

私の中の純情仮面が泣いている。

いや、大丈夫だ。

私の中の変態仮面が目覚めて・・・・ひーーーん。

そういえば・・・と私は亡くなった父のことを思い出していた。


父は週に2度、ベッドの横に浴槽を組み立てて、
訪問入浴介護を受けていたのだけれど、
その入浴介護メンバーに、若い女性が入っている時も多々あったのだった。

 
父は、不機嫌になったりもした。
あれは・・・恥ずかしかったんだろうなあ。

そりゃあ、なあ。
若い娘さんに嫌も応もなく、マッパを見られるんだもの。

年よりなんだもん。
そんなもん、介護する方は、いちいちそんな風には見ていません!・・と言われれば
それまで。

だけど、父の中の純情仮面が、恥ずかしがってしくしく泣いていたんだなあ。

 

私のケースだって、「これはあくまで、検査の一環。いちいちそんな気持ちで見ていません」って言われておしまいなんだろう。

判ってる。

判ってるさ。

それでも、それでもさあ。

ああ、せめて同性に・・・なんて願っても、
「な~に我儘ぶっこいているんですか!」と一蹴されておしまいなんだろうか。

それでもなあ。
恥ずかしいものは、恥ずかしいよなあ・・・と思いながら、
純情仮面tonntikiは、看護師さんを呼ぶために、再びトイレのブザーを押すのだった。