ワクチンはまだか

「今、この段階で

コロナにかかったら 、命に関わります。

 

とりあえず 1日も早く コロナワクチンを打つこと。

 

tonchikiさんの所には 、申込書は来てるのかな ?」

 

「いいえ、今の段階では 見ていません 。来るのかな …。」

 

「そうか、それは困ったな。

とりあえず くどいけれども、 1日も早く ワクチンを打ってもらわないと。

抗がん治療を行うと、 発熱したりすることがあるんだけど 、もし発熱しても コロナかどうか 見極められないとそれも 困るしね。

いや、もちろん事前検査はしますけどね。」

 

「あーそうなんですね。」

 

 離島先生の 口元を見ながら 、毎回毎回 こういう話のとき、どうして 自分の話だと 思えないんだろう ?入ってこないんだろう ?と 少し不思議な気持ちになる。

 

「もし ワクチンが遅れるようなら 、抗がん剤の 治療も それに準じて 遅れてしまうんだよね。 」

 

「あーそうなんですか。」

 

看護婦さんが 横から 、

「基礎疾患が あるということで、 そろそろ届くとは思うんですけどね。」 と 言った。

 

「もし 遅れるようだったら 、2週間以上 何の音沙汰もないようだったら 、自分から 役所に連絡して 、なんとか 1日でも早く 打てるように 働きかけてください。」

 

「はいわかりました。」と言いながら 、いくら働きかけたところで 、打ちたいという人は たくさんいる。

そうそう私だけ というわけにはいくまいと ぼんやり考えていた。

外来の日


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可愛げのある人間になる?

いやいや そんなこと言ったって 、

そもそも 私は可愛げのある人間じゃなかったんだった。

 

こうなってから いくら ドクターの 印象を よくしようと 思ったところで、 いきなり 好印象の 素敵な患者にはなれない。

なれるはずもない。

 

やっぱり 普段から 身につけたものがないと、 いざって時には 困るもんだよな 。

そりゃ、ありがとうございますをきちんと言うくらいは、心がけるけどさ。

 

自分で自分を笑いながら 、日々を過ごしている私 。

 

別に開き直っているわけではないけれど 、やっぱり ドクターとの 相性っていうのも運。 運だよなぁ と思う。

 

今日は 退院してから 初めての外来での 診察だった。

 

もう慣れたはずなのに、 前の晩から 緊張して 眠れない。

睡眠が浅いと パニック障害に 直結しているような気もするし 、いかん、いかんなあと思いながら 、思えば思うほど 眠れなくなったりする。

 

とにかく タクシーを呼んで 病院へ向かった。 

 

この タクシー代が 馬鹿にならない。

往復で約1万円。 …全く。

 

もったいないから バスでと思うけれど 、体力的にも 精神的にも 今は無理。

弟が送ってくれる時はいいけれど。

バスに乗っていて、迷惑をかける結果になったら、目も当てられない。

なので 必要経費だと 財布は見ないようにして、自分に言い聞かせ る。

 

少し前 、高齢者の 免許返上 話が 大きくクローズアップされていたっけ。

けれど 田舎じゃ こういう時 本当に 困るのだ。お金がかかる。

簡単に 免許返上できない 高齢者は 多いよなぁ なんてことを考える。

免許返上した後のことを考えると。

 

私がもっと年を重ねたら、どうなるんだろうなあ。

 

いやいや、今は考えるまい。

 

とりあえず 病院に到着  。

 

診察室に入ると、離島先生が 「どうですか 」と 声をかけてくれた。

 

「はい 、なんとか おかげさまで。 」

 

「そういえば抗がん治療の 方法は 決まりましたけれど 、その前に ワクチンを打たないとね。

なんせ 抗がん治療を始めると 、めちゃくちゃ免疫力が落ちるから 。

コロナにでもかかった日には 命の問題になりますしね。」

可愛げ

患者 って いつも 、自分はひときわ丁寧に診て欲しいと思っている 。

願ってる。

 

 言い方を変えると、 自分をスペシャル に捉えて欲しいと言う 気持ち。

 

我が儘とも捉えかねられないけど、でもだって、非常事態なんだものって。

 

ドクター達は、 数多くの 患者さんを 診るわけだから、 自分がはその中で 埋もれてしまうんじゃないかと言う 漠然とした 恐れは常にある 。

 

そんなことはないよ 。

ドクターはちゃんと1人1人、きちんと 見てくれている。

そう思うけれど 、でも 。

 

人間で ある以上、好き嫌いだってあるし 相性だってある 。

 

ドクターだって神様じゃない。

嫌だなーと 思う患者 だっているに違いない。

 

思っても、そこに ドクターのプロ意識 が 発動…されたとしても。

 

できるならば、 好意を持たれる 、大事にされる 患者でいたい 。そんなふうに 無意識のうちにでも、 患者は思う。

 

そのためには 患者という 大きなくくりの中ではなく、 tonchikiという 個人として、 立ち上がること。

 

そうかそうか と私は思う 。

 

あれこれと やり方はあるんだろうけれど 、基本は人間同士。

 

ありがとうございます 。よろしくお願いします という 当たり前の ことをきちんと伝えること。

 

そして と私は ティム の方を見る 。

媚びるってことじゃないんだ。

でも、可愛い げって 大事よね。

 

ティム先生は 首をかしげて 微笑んでる。

ティム

他人って、案外 自分が思うより いろんなものを 見ているもんだよね。


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友達が入院する前 送ってくれたぬいぐるみ。

 

それがティム。

 我が家に届いたティムは、 お尻のところに ジッパーがあって、その中には 耳栓が入っていた。

 

妙なところで神経質な 私のことを 見抜いたように 、

「病室で音が気になって眠れない時は、 これを使ってね」って。

 

驚くのと同時に 、嬉しくて大笑いした私。

 

だから 、入院する時には ティムを連れてきた。

 

ティムは 、ハワイ部屋の中で 人気者だった。

 

最初に 目をつけて 話題にしたのは 、 オメガドクター。

 

「これはこれは 」なんて言いながら、

「これ、有名だよね」って。

 

ティムは、ミニオンの末っ子が抱えている熊ちゃん。

私も知らなかったのに、オメガドクター…。

 

「ひょっとしてユニバーサルスタジオで?」

 

「あ、いえいえ 違うんです。 それは友達のプレゼントで 。実は 中に耳栓が入ってるんです。」

 

そう言うと 、オメガドクターは、

「あーなるほど。 それは気が利いてるな。」 そういって、 回診の度に 、「あ、いるな 」とか 、「ユニバーサルに 元気になったら行かないとね。」とか 話題にするのだった。

 

私に着いた 看護学生ちゃんず も 、ふと見るとティムの頭を撫でていたり 、お掃除に来た 人も にっこり笑って 見ていたり。

 

ピリピリした場所で 、みんな 何か 可愛く 優しいものを求めていて 、ティムは 笑顔外交官として 立派な勤めを はたしていたのだった。

今後の方針決定

心なしか 少し緊張した 時間が流れた。

 

外科と 乳腺外科と は 診るものが、視点が、違う。

それは分かっていることだけれど 、なんだろう、この 緊張した空気。

 

離島先生が、

「tonchikiさん、今日の具合はどうですか。」 と聞いてきた。

 

「はいおかげさまで。」

 

乳腺ご陽気ドクターが言う。

 

「あ、先生おはようございます。

今 tonchikiさんの 話を聞いていて。

今後の治療方針について、乳腺の方からの視点でってことで 質問を受けていたんですけど。

 

乳腺外科としては、 ポートを入れるんだったら、 ちょっと 乳癌のチェックがしにくくなるかなということを ご説明してて。」

 

「あーそうでしたか。」 と、離島先生が言う。

 

「そうなんですよ。

もちろん 大腸がんの方が 治療の主なわけですから 、そちらの 治療がしやすいように ということが一番なんですけれども。」

 

「あーなるほどね 。そうか、 そうですね。ポート入れると、マンモも…」 と、離島先生。

 

「まあ私の勝手な言い分なんですけれども、 やっぱり検査の事を考えると …。

もちろん こちらもポートを入れた患者さんにも対応はしているし 、いろいろ やり方も探ってはいるんですけどけれど。 」

 

「そうか。じゃあ ポート無しの方が そういう意味では良いかもしれませんね。」

 

「あ、もちろんもちろん 、繰り返しますけれども、 大腸の方を主流に 考えて頂きたいんですけど 。

乳腺の方としては、 わがままを言わせてもらえれば そういうことなんです。 」

 

乳腺ご陽気ドクターが 、とても 気を遣いながら 話してくれているのが 分かった 。

 

「そうか。そういうことなら ポート無しにしましょうか。」

 

「はい 。」と、頷く私 。

 

こうして 思わぬ 形で 私の 今後の 抗癌治療の 方法が選択された。

 

「ありがとうございました。」

 

離島先生と 乳腺ご陽気ドクターに、お礼を言いながら 、それでもやっぱり 私は もう一つの方法を選んだ方が良かったんじゃないかと あれこれ迷い、思うだろうと 思った。

 

でもいい。 もう決めたんだ。

決めたんだから。

それが聞きたかった

ほとんど眠れないまま 、朝を迎えた。

 

ハワイ部屋の中で、 歯を磨き顔を洗う。

ぼーっとしてんな。

覇気のない 顔が鏡の中で こっちを見ている。

 

朝食を食べた後 廊下に出る。

少しは動かないと自分にそう言って 歩く。

 

そうしたら 、またもや乳腺ご陽気ドクターに出会った。

 

「あら、tonchikiさんおはよう。

どう具合は ?」

 

「あー先生 !おかげさまで 。

本日退院なんです 。

 

あ!そうだ !!

そういえば 先生に お伺いしたいことがあって。

お忙しいでしょうけれど、 聞いていただけませんか?」

 

「まー何 なんだろう。 」

 

「いや実は 、離島先生から 今後の 抗がん治療の 方法を選べって 言われているんですけれど、 私 どっちがどういいのか分からなくて。

そういえばその選択って、 乳癌にも 関係することだから 、先生のご意見を お伺いできないでしょうか と思って。」

 

「あーそういうことね 。離島先生はどう仰ってた?」

 

「二つの方法があって …すいません 、今、パッと お答えできなくて。

病室の中に 離島先生が説明してくださった メモがありますから 、それを見ながらだったら。」

 

「あそうね、じゃあ 」と言って 乳腺ご陽気ドクターは ハワイ部屋へ 入ってきた。

 

「なるほど …そっかそっか 」

メモを見ながら頷いている。

 

「本来はね、folfox…こっちが 基本だったのよ。」

 

「そうなんですね 。」

 

「でもfolfoxは、ポート入れるのよね 。」

 

「あ、はい。そうおっしゃってました 。」

 

「そうなると乳がんの 検査とか、ちょっと やりにくくなるかもね 。

マンモとか。…こっちxeloxはね 、乳癌の手術の後も 使うやり方なの。 こっちは新しいやり方なんだよね。 効果あるよ。私も使ってるし 治療に。 私としては こっちがいいかな って思うけど 、でも、大腸癌の方が大事だもんね。」

 

そこまで聞いて 気持ちは決まった。

 

そう。そういう話が聞きたかったんだ。

 

そう思っていたところに 、離島先生が入ってきた 。乳腺ご陽気ドクターと 一緒にいる私を見て 、ちょっとびっくりした顔をしている。

深呼吸した


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こんな時には 、こんな眠れない夜には、 友達との LINE に逃げ込むのが1番。

 

携帯を手に取る。

 

そこには、国王の 介護をしていた 日々の 中 私を 笑わせ 、私を 泣かせ、私を 抱きとめてくれた  友達がいる。

 

もう気づけば20年以上の 付き合いになるんだな。

 

「どちらを選べば良いか、 さっぱり分からないんだよ 。考えていたら眠れなくてさ。 」

 

正直に書いてみる。

 

「5年後の 生存率 60%なんて みちゃって ちょっとへこんでる。 」

そう書いたら 、

「そんなの今見ちゃダメ。 そして 60%の方に 入ればいいだけだからね❗」

そう 返事がかえって来た。

 

そうだね。

そうまた返事を書きながら 、べそべそ泣いてしまっているのは 、ホルモン剤のせい だと思いたい。

 

「ねえ 、先生なら どちらを選びます?って聞いてみたら ?」

 

「うん。 私もそう思って そう言ってみたけれど、返事返ってこなかった 。…ネットで あれこれ冷静に 調べてみるのが すじなんだろうけど、 だめだ。」

 

「うん。 今日はもういいじゃん。… あ そうだ。 かかりつけ医の先生に 相談してみたら?。

元はと言えば、 かかりつけ医の先生が そっちの病院に まわしたことから こうなっていることでもあるし。

今の 病院からの情報も色々回っているだろうから 、同じこと何度も説明しなくても済むし。」

 

「あーそうか!その手があったよね。」

 

少し 目の前が開けたような気がした 。

本当は 相談もくそも、 何も考えたくない。 それが私の本音ではあるけれど …。

そうか そうか。

やっぱり 自分だけじゃ 煮詰まってしまうもんだな。

一緒になって 考えてくれる 相手がいるって ありがたいことだ。

本当に、ありがたいこと。

 

深呼吸した。

 

私が 実は大腸がんと乳がん ダブル になっちまったよと言った時、「私が支える」 と即座に 返してくれた人。

 

太后 のことが 気になってるんだろうからってわざわざ いない時に 皇太后の 好物、焼き肉弁当を 買って 、顔を見に きました そう言って家を訪ねてくれた人 。

 

俺の友達にも ステージ3 てのがいるけど 、 働かなくっちゃって今仕事探してるぞ って 話してくれた人。

 

そうなんだ。

他にも これ作るの簡単だからって。

これ美味しいよって。

 

ネットを通じて知り合った 人たちからの あったかい、信じられないようなあったかい気持ちが届く。

 

「希望」

そのノートを読んだ時の気持ちを

私は表現できない。

 

受けとる度に、私は…。

 

頑張れ 頑張れ 頑張れ 頑張れ。

 

直接的にそう書いているわけではないけれど、 気持ちが 届く。

 

アンラッキーの中の ラッキー

 

そう。 ひとつひとつ 混乱の中で 私の 気ちを切り替え、足元を照らしてくれる あかりは ある。

 

 

私は再度深呼吸して 、そうだな 今度 かかりつけ医の先生に 相談してみよう。

 

眠るために、もう明るくなっているハワイ部屋のなかで目をつぶる。